前回までの悪縁を断つ寺 鎌八幡 昨年の続き 修さんに捧ぐ!2
【前回までのあらすじ】
マサを助ける為、自分の罪を償う為、殺害してしまい残された親子の為、修さんは高野山に過酷な護摩行を行う為向う修さん。
そこ、高野山で彼を待っている因縁とは・・・
(ライターFT)
『悪縁を断つ寺 鎌八幡 昨年の続き 修さんに捧ぐ 3』
午前9時40分、南海電鉄高野山駅に着いた。
大阪、なんば駅から南海電鉄から特急に乗り込み約2時間弱の間、修さんは今までのことを思い返していた。
獄中での不思議な怪奇現象、出所してからの周りに起こる不幸、そして自分が犯した罪、リョウコの死、様々なことが思い返されいた。
このころ修さんの体は段々と癌に蝕まれていた。
ゆっくりと真綿で首を絞めるようなスピードで本人も分からない速度でゆっくりと癌細胞は修さんの体を侵食していた。
好きな酒も飲めなくなっている。と、いっても量を飲めないだけだった。いつもなら1升近く日本酒を飲んでも翌日はケロリとするほどの酒豪だったにも関わらず、2合飲むと酔いが回りだし気分が悪くなっていた。
それでも飲まないことには眠れないので毎晩酒を飲み、無理やり床についていた。食欲不振と全身の倦怠感は以前に増して酷くなっていた。
『本当に俺はマサを助けられることが出来るんだろうか?』
言い知れない不安の中、見えない何かと戦うことの恐怖は並大抵のことではなかった。しかしどうしてもマサだけは助けないと。
マサに何があったのか、小脳梗塞という病になったのは呪いのせいなのか?もし呪いをかけられていたとしたらそれはMの母と息子が呪いを仕掛けたのか?考えれば考えるほど分からない。
第一、この世に呪いなど存在するのだろうか。
駅の改札を抜け、バスで目的の寺に行こうとした瞬間、修さんは凍りついた。目の前に腰の曲がった老婆が行く手を遮った。
『行くな・・・』
完全に金縛りの状態だった。
全く動けない。
老婆の杖が修さんのみぞおちに突き立てられた。
悶絶し呼吸が出来なくなる修さん。何という強い力!
老婆が出せる力ではなかった。やっとのことでその場にうずくまることが出来たが苦しさはまだ止まない。
やっとの思いで顔を上げるとそこに老婆の姿はなかった。
やせ細り、怒りをあらわにした形相の老婆、紛れもないMの母親だった。まるでこの世の者ではないような空気を感じた。
ようやく起き上がることが出来、なぜここにMの母親がいるのだろうと考えた。考えれば考えるほど分からない。ひょっとしてずっとどこかで監視されていたのかも知れない。
それにしても不可思議な出来事が多すぎる。
マサの変わりようと言い、Mの母親の突然の出現、そして突然消えていなくなる。うずくまっていた時間は3分もたたなかった。周りには人はいないが、駅前の道路は見晴らしが良い、うずくまりながら目を閉じたのはほんの数秒間だと言うのになぜ姿を見失う?
もう考えまい、考えた所で分からないのだ。
まずは寺に行こう、そこで何か対策を教えてもらえるかも知れない。
焦りと恐怖と不安の中、鎌八幡の住職に紹介してもらった寺にようやく到着した。大きな寺で美しい作りだ。寺の管理事務所に紹介状を提出し、若いお坊さんに要件を伝えると、寺の奥にある小さな建物に案内された。
そこには革張りの豪華なソファーが置かれ、その奥にある小さな部屋に正坐している置物のような小さなお坊さんがこっちを向いて座っていた。そのお坊さんは修さんを見るなり、
『よう来なすった、お待ちしてました。お宅がうちの護摩行をご希望される人やね。』
その小さなお坊さんは修さんに張りのある体からは似つかない大きな張りのある声で言った。
『そうです、護摩行をしないといけないと玉造の鎌八幡のご住職に言われここに参りました』
修さんは落ち着いて答えた。間髪入れずに小さなお坊さんは答えた。
『あんさん、うちの護摩行に耐えられまへんわ』
思わず修さんは言葉を失った。いきなりこんな返答をされ何を言っていいか分からなくなってしまった。間髪入れずにそのお坊さんは続けて言葉を発した。
『あんさん、体悪いでっしゃろ、今回お聞きしてる護摩行はそらかなり熱いんでっせ、多分、あんさん癌をわずろうてますやろ、無理でっせ、死にまっせ』
その返答に修さんは自分でもわけのわからないうちにこんな返答をしていた。
『わしの命なんてどうでもええんです、助けたらなイカン人間がおりますんや、何とか鎌八幡のご祈祷を受ける為にはこの護摩行をして身を清めなあきまへんねや!ご住職、どうかわしの願いを聞いてくれませんか』
薄笑いを浮かべていた小さなお坊さんの表情が変わった!
『ここで死んだら、あんさんが助けたいお方はどないなってもええんでっか?簡単にどうなってもええなんて抜かしてたらあきまへんがな、死んでも生きるっちゅー気概がないとこの行は務まりまへんで』
住職の瞳の奥には全てを知っているかのような眼差しを感じた。
『おっしゃる通りです。まだわしも死ねまへん。どんな事があっても死ねまへん。』
修さんはそう答えた。
住職の眼差しは険しいままだった。こちらをじっと見据え、小さな体から発せられる通る声でこう言った。
『ほな、早速やりまひょか、今から3日間絶食や、それからその3日間は眠ることも言葉を発することも出来まへん、それが達成出来たらようやく護摩行になります。今言ったことを一つでも破れば護摩行は出来まへん、よろしな』
若いお坊さんに案内され、作務衣を渡され着替えた。
そして本堂の廊下を掃除するように言われた。
修さんは何も答えず、言われた通りに本堂の廊下の雑巾掛けをひたすらした。
3時間が過ぎたころ、住職が目の前に現れた。
『本堂に入りまひょか、そこで禅を組みます、まずはここで目を開けたまま横になりなはれ、今から5時間横になりなはれ、瞬きはかましまへんけど絶対に眠ったらあきまへんで』
そう言って住職はその場を離れた。
仰向けになり本堂の天井を見つめていた。
体は疲れていたがまだ眼は冴えている、5時間は眠ることはないだろう。
しかしただ横になり何も言葉を発せずじっと5時間耐えられるだろうか?いちまつの不安はあったがそんな事は問題にしていなかった。これも行の一種だと思うと心は澄み切った感覚でいっぱいになっていった。
次回に続く
【前回までのあらすじ】
マサを助ける為、自分の罪を償う為、殺害してしまい残された親子の為、修さんは高野山に過酷な護摩行を行う為向う修さん。
そこ、高野山で彼を待っている因縁とは・・・
(ライターFT)
『悪縁を断つ寺 鎌八幡 昨年の続き 修さんに捧ぐ 3』
午前9時40分、南海電鉄高野山駅に着いた。
大阪、なんば駅から南海電鉄から特急に乗り込み約2時間弱の間、修さんは今までのことを思い返していた。
獄中での不思議な怪奇現象、出所してからの周りに起こる不幸、そして自分が犯した罪、リョウコの死、様々なことが思い返されいた。
このころ修さんの体は段々と癌に蝕まれていた。
ゆっくりと真綿で首を絞めるようなスピードで本人も分からない速度でゆっくりと癌細胞は修さんの体を侵食していた。
好きな酒も飲めなくなっている。と、いっても量を飲めないだけだった。いつもなら1升近く日本酒を飲んでも翌日はケロリとするほどの酒豪だったにも関わらず、2合飲むと酔いが回りだし気分が悪くなっていた。
それでも飲まないことには眠れないので毎晩酒を飲み、無理やり床についていた。食欲不振と全身の倦怠感は以前に増して酷くなっていた。
『本当に俺はマサを助けられることが出来るんだろうか?』
言い知れない不安の中、見えない何かと戦うことの恐怖は並大抵のことではなかった。しかしどうしてもマサだけは助けないと。
マサに何があったのか、小脳梗塞という病になったのは呪いのせいなのか?もし呪いをかけられていたとしたらそれはMの母と息子が呪いを仕掛けたのか?考えれば考えるほど分からない。
第一、この世に呪いなど存在するのだろうか。
駅の改札を抜け、バスで目的の寺に行こうとした瞬間、修さんは凍りついた。目の前に腰の曲がった老婆が行く手を遮った。
『行くな・・・』
完全に金縛りの状態だった。
全く動けない。
老婆の杖が修さんのみぞおちに突き立てられた。
悶絶し呼吸が出来なくなる修さん。何という強い力!
老婆が出せる力ではなかった。やっとのことでその場にうずくまることが出来たが苦しさはまだ止まない。
やっとの思いで顔を上げるとそこに老婆の姿はなかった。
やせ細り、怒りをあらわにした形相の老婆、紛れもないMの母親だった。まるでこの世の者ではないような空気を感じた。
ようやく起き上がることが出来、なぜここにMの母親がいるのだろうと考えた。考えれば考えるほど分からない。ひょっとしてずっとどこかで監視されていたのかも知れない。
それにしても不可思議な出来事が多すぎる。
マサの変わりようと言い、Mの母親の突然の出現、そして突然消えていなくなる。うずくまっていた時間は3分もたたなかった。周りには人はいないが、駅前の道路は見晴らしが良い、うずくまりながら目を閉じたのはほんの数秒間だと言うのになぜ姿を見失う?
もう考えまい、考えた所で分からないのだ。
まずは寺に行こう、そこで何か対策を教えてもらえるかも知れない。
焦りと恐怖と不安の中、鎌八幡の住職に紹介してもらった寺にようやく到着した。大きな寺で美しい作りだ。寺の管理事務所に紹介状を提出し、若いお坊さんに要件を伝えると、寺の奥にある小さな建物に案内された。
そこには革張りの豪華なソファーが置かれ、その奥にある小さな部屋に正坐している置物のような小さなお坊さんがこっちを向いて座っていた。そのお坊さんは修さんを見るなり、
『よう来なすった、お待ちしてました。お宅がうちの護摩行をご希望される人やね。』
その小さなお坊さんは修さんに張りのある体からは似つかない大きな張りのある声で言った。
『そうです、護摩行をしないといけないと玉造の鎌八幡のご住職に言われここに参りました』
修さんは落ち着いて答えた。間髪入れずに小さなお坊さんは答えた。
『あんさん、うちの護摩行に耐えられまへんわ』
思わず修さんは言葉を失った。いきなりこんな返答をされ何を言っていいか分からなくなってしまった。間髪入れずにそのお坊さんは続けて言葉を発した。
『あんさん、体悪いでっしゃろ、今回お聞きしてる護摩行はそらかなり熱いんでっせ、多分、あんさん癌をわずろうてますやろ、無理でっせ、死にまっせ』
その返答に修さんは自分でもわけのわからないうちにこんな返答をしていた。
『わしの命なんてどうでもええんです、助けたらなイカン人間がおりますんや、何とか鎌八幡のご祈祷を受ける為にはこの護摩行をして身を清めなあきまへんねや!ご住職、どうかわしの願いを聞いてくれませんか』
薄笑いを浮かべていた小さなお坊さんの表情が変わった!
『ここで死んだら、あんさんが助けたいお方はどないなってもええんでっか?簡単にどうなってもええなんて抜かしてたらあきまへんがな、死んでも生きるっちゅー気概がないとこの行は務まりまへんで』
住職の瞳の奥には全てを知っているかのような眼差しを感じた。
『おっしゃる通りです。まだわしも死ねまへん。どんな事があっても死ねまへん。』
修さんはそう答えた。
住職の眼差しは険しいままだった。こちらをじっと見据え、小さな体から発せられる通る声でこう言った。
『ほな、早速やりまひょか、今から3日間絶食や、それからその3日間は眠ることも言葉を発することも出来まへん、それが達成出来たらようやく護摩行になります。今言ったことを一つでも破れば護摩行は出来まへん、よろしな』
若いお坊さんに案内され、作務衣を渡され着替えた。
そして本堂の廊下を掃除するように言われた。
修さんは何も答えず、言われた通りに本堂の廊下の雑巾掛けをひたすらした。
3時間が過ぎたころ、住職が目の前に現れた。
『本堂に入りまひょか、そこで禅を組みます、まずはここで目を開けたまま横になりなはれ、今から5時間横になりなはれ、瞬きはかましまへんけど絶対に眠ったらあきまへんで』
そう言って住職はその場を離れた。
仰向けになり本堂の天井を見つめていた。
体は疲れていたがまだ眼は冴えている、5時間は眠ることはないだろう。
しかしただ横になり何も言葉を発せずじっと5時間耐えられるだろうか?いちまつの不安はあったがそんな事は問題にしていなかった。これも行の一種だと思うと心は澄み切った感覚でいっぱいになっていった。
次回に続く