さて、2回目です。
台風の対策は大丈夫ですか!
どこにも行けない金曜日の深夜、
一人で蒸し暑い夜を過ごすには
もう少し涼しくなる必要がありそうですね。
全て本当のお話。
そう、実話なのです。
全てはオレ自身の体験談です。
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┃『悪縁を断つ寺 鎌八幡 2』
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職人の ”おっちゃん“ に促され、鎌八幡本堂に連れていかれた。
出迎えてくれたのは気のよさそうなごく普通のお寺の住職。その横には住職の奥様らしき方も一緒に迎えてくれた。60代の気のよさそうな2人だった。
『どうも。お久し振りです。』
職人のおっちゃんは住職に軽く挨拶をかわす。
横にいるオレの背中に手を添え、一歩前に出るように促す職人のおっちゃん。されるがままに一歩前に出て無言で住職夫妻の前に立ち尽くすオレ。
『まあ、上がって詳しいお話、聞かせて頂けますか』
優しい物言いで住職が声をかけてくれた。
プライベートな事なので詳しい内容は書けないが、住職にそう言われたオレは、どこから話していいのやら迷っていた。業を煮やした職人のおっちゃんが切り出した。
『こいつ、義理の母親を殺そうとしましたんや!まあ、物騒な話なんやけど、こいつの気持ちとわしの気持ちはほぼ一緒でんねん、恥ずかしながら』
住職と奥様は古びたソファーに腰掛け、対面に座っているオレと職人のおっちゃんの話に耳を傾けてくれた。一通り話を聞き終わった住職は、人間の真理について話してくれた。
『事情はよく分かりました。この話はどこにでもある話ですな。しかし我慢にも限界ってものがあります。彼は限界を超えただけの事、今はどうですか?殺してやりたいと思う気持ちはまだ残ってますか?』
住職はこう言って話を続けた。
『自分だけがなんでこんな目に遭うんやろと君は思てますわな、でも、誰しもが一度は思う感情ですねん、はっきり言ってこれくらいの事、人間我慢せなあきまへん、こう言った事を乗り越えて人間成長して行きますのや、どないでっか、我慢出来まへんか?』
自分自身では我慢の限界をとうに超えていたのだが、住職にこう言われたオレは内心、恥ずかしく感じてきていた。自分の我慢の限界が人よりも少ないのでは無いだろうか?そんな事を考えていた。
しかしもう一度今までされてきた事を考えなおすとさらに腹が立ってきていた。自分では結構我慢強い性格だと思っている、実際にかなりの我慢をしたつもりでいる。横で職人のおっちゃんが一言付け加えてくれた。
『こいつはかなり我慢しました。傍で見ていたわしも見てられんほどですわ!』
そう言って住職にオレが言えなかった事を代わりに職人のおっちゃんが付け加えて住職に話してくれた。その話を聞いた住職は眉間に皺をよせながら静かに口を開いた。
『仕方ないですな、そこまで言われたら何とか考えなあきまへんな。ただ、うちではその人と完全に縁を断つと言うことはお勧めしまへん。』
住職の話を要約するとこう言うことだった。
恨みや妬み、怒り、そういった力はあまり大きくしない方が良い。
義理の母と言えどもこうして戸籍上一緒になってる事は何かしらの ”縁” があっての事、その ”縁“ を自ら断ち切る事は仏の真理に反する事。
だから義理の母との縁を切るのでは無く、自分自身の負の力と縁を切りなさい。それなら私もあなたの力になれます。
との事だった。
おかしな話、住職に事情を説明している最中、どういった訳か涙が止まらなかった。話ながら嗚咽するほどだった。住職の優しい表情、横にいる奥様の親身になって聞いてくれていると言う本気の態度が伝わってきていたのかも知れない。とにかく話ながら自分の感情的には怒っているにも関わらず涙が止まらなかった。
住職曰く、
『あんたの殺してやりたいと思う気持と縁を切りなさい』
オレにとってはこの住職の言葉が全てだった。
この方法以外無いとも感じた。そしてこの方法が最善の方法だとも感じた。
では、一体どんな事をするのだろう?
御神木に鎌を打ち込むのか!
そうでは無かった。
御神木の前に連れて行かれ、手を合わせるように言われ住職はお経のようなものを読み上げだした。
静まり返る境内、線香の香りが体にまとわり付き、住職の読み上げるお経のようなものがオレの体を包み込むような感覚とでも言えば良いのか、明らかにお経とは異なる。
後で職人のおっちゃんから聞いた話なのだけど、この時、 ”祈祷” をしていたようだった。
祈祷を終え、住職に細かい説明を聞き、これからは最低月に一回、この御神木に自分の恨みや殺してしまいたいと言う衝動が無くなるまでお参りしなさいとの事だった。
泣いたせいもあってのことか、祈祷して貰った帰りはすっきりとした気持ちだった。職人のおっちゃんには感謝してもし切れない程の感謝の感情まで芽生えてきた。
どうやら住職の言う通り、オレの考えが甘い考えだけの事だったのだろうか?祈祷して貰う前と後では雲泥の差だ。
例えるなら、飲みすぎて極度の二日酔いの状態から清々しい気持ちに一瞬でなったような感じと言えば良いのだろうか、それほど心は清々しかった。
職人のおっちゃんに、何故、あの寺の事を知っていたのか帰りの車の中で訪ねた。するとおっちゃんはあまり触れられたくないような感じだったが、静かに話してくれた。
『今から30年くらい前の事や、わしな、人殺した事あるんや』
横で聞いていたオレは驚きを隠せなかった。
次週に続く