ここからは悪縁を断つ寺 鎌八幡 昨年の続き 修さんに捧ぐシリーズになります。
(ライターFT)
『悪縁を断つ寺 鎌八幡 昨年の続き 修さんに捧ぐ
第2章 その1』
医師の元山一雄が何故、霊安室の横にあるトイレに行かざるを得なかったか。
普段から霊安室横にあるトイレには出来るだけ近寄りたくなかった。
幽霊やお化け等の類を信じてはいなかったが、元山は小さい頃からそうしたものをよく見たり感じる方だった。
だから医師になったのかも知れない。
科学で説明のつかないことが自分自身納得出来なかった。
今までもそうだった。
祖母が亡くなった日、元山は死んだはずの祖母と会話した経験もある。
肝臓の病気で長い間入院生活が長かった祖母、元山は優しい祖母が大好きだった。両親たちの会話の中で祖母が長くないということは当時小学生だった元山もうっすらと理解していた。
その日は母親がいつもと雰囲気が違い、慌ただしく家を出て行った。
元山には何となくわかっていたような気がしていた。
母親が家を出る際、彼はこういった。
『おばあちゃん、死んだの?』
慌てていたこともあり、母はその言葉を遮るように元山に言った。
『そんなことないのよ、ちょっと病院から連絡があっておばあちゃんの様子を見に行くだけよ、心配ないわ』
元山は確信に近い何かを感じていた。
それは祖母がこの世を去ったという確信だった。
母が家を出た後、元山は自分の部屋に戻ろうと思い、階段をゆっくりと上がった。
自分の部屋のドアを開けた瞬間、そこにはいるはずのない祖母が優しい表情で元山を愛おしそうに見つめて元山のベットの横で正座をしてこちらを見ている。
『おばあちゃん、死んじゃったの?』
考えるより先に口が開いていた。
何も答えない祖母は優しい表情のまま、口を開かずに元山に答えた。
『おばあちゃんね、やっと楽になれたのよ、かずちゃんには会えなくなるけど、泣いちゃだめよ、おばあちゃんかずちゃんのことずっと見守ってるからね』
不思議と怖さは全くなかった。
小学生と言えども、祖母が自分に別れの挨拶をしていることが理解出来ていた。元山は祖母の元に駆け寄った瞬間、祖母の姿はどこにもなかった。元山は泣いた。大好きだった祖母の死を理解していた。
病で苦しんでいた祖母が、自分の口から ”やっと楽になれた” と言う言葉を聞いて、内心ほっとしていた。
そんな幼少の頃の不思議な思い出を思い出しながら元山は霊安室横手のトイレに駆け込んだ。かなり我慢していたこともあり、場所なら自分が現在いる場所から一番近いトイレに無意識に走っていた。
急を要する場合でも霊安室横のトイレだけは絶対に入らない。
元山が自分でそう決めていた。
自分が霊感体質なのも理解していた、余計な事には巻き込まれたくないという思いからだろうか、霊安室横のトイレだけは入らなかった。
にも関わらず、この日は何故かこのトイレで用を足している自分に対し、何とも形容しがたい不思議な力でこのトイレに導かれたような感覚だった。
霊安室横のトイレは通常の病棟のトイレのように大きな造りでは無い。
霊安室に安置されている亡骸の家族用のトイレと言ってもよい。個室が一つと男性用小便器が一つ設置されている小さなトイレだった。
限界まで小便を我慢していた元山は用を足した後、激しい悪寒に襲われた。背後で誰かがこちらを見ら見つけられているような鋭い視線を感じていた。しかし背後は個室、後ろを振り返った元山は個室の上部、パーテーションが無い部分からこちらを物凄い形相で睨みつけている男を見た。
トイレ個室の天井部分、電灯横手の点滴用フックに紐を吊り、首を吊って死んでいるマサを見上げていた。
『悪縁を断つ寺 鎌八幡 昨年の続き 修さんに捧ぐ
第2章 その2』次週、火曜日に更新予定!
(ライターFT)
『悪縁を断つ寺 鎌八幡 昨年の続き 修さんに捧ぐ
第2章 その1』
医師の元山一雄が何故、霊安室の横にあるトイレに行かざるを得なかったか。
普段から霊安室横にあるトイレには出来るだけ近寄りたくなかった。
幽霊やお化け等の類を信じてはいなかったが、元山は小さい頃からそうしたものをよく見たり感じる方だった。
だから医師になったのかも知れない。
科学で説明のつかないことが自分自身納得出来なかった。
今までもそうだった。
祖母が亡くなった日、元山は死んだはずの祖母と会話した経験もある。
肝臓の病気で長い間入院生活が長かった祖母、元山は優しい祖母が大好きだった。両親たちの会話の中で祖母が長くないということは当時小学生だった元山もうっすらと理解していた。
その日は母親がいつもと雰囲気が違い、慌ただしく家を出て行った。
元山には何となくわかっていたような気がしていた。
母親が家を出る際、彼はこういった。
『おばあちゃん、死んだの?』
慌てていたこともあり、母はその言葉を遮るように元山に言った。
『そんなことないのよ、ちょっと病院から連絡があっておばあちゃんの様子を見に行くだけよ、心配ないわ』
元山は確信に近い何かを感じていた。
それは祖母がこの世を去ったという確信だった。
母が家を出た後、元山は自分の部屋に戻ろうと思い、階段をゆっくりと上がった。
自分の部屋のドアを開けた瞬間、そこにはいるはずのない祖母が優しい表情で元山を愛おしそうに見つめて元山のベットの横で正座をしてこちらを見ている。
『おばあちゃん、死んじゃったの?』
考えるより先に口が開いていた。
何も答えない祖母は優しい表情のまま、口を開かずに元山に答えた。
『おばあちゃんね、やっと楽になれたのよ、かずちゃんには会えなくなるけど、泣いちゃだめよ、おばあちゃんかずちゃんのことずっと見守ってるからね』
不思議と怖さは全くなかった。
小学生と言えども、祖母が自分に別れの挨拶をしていることが理解出来ていた。元山は祖母の元に駆け寄った瞬間、祖母の姿はどこにもなかった。元山は泣いた。大好きだった祖母の死を理解していた。
病で苦しんでいた祖母が、自分の口から ”やっと楽になれた” と言う言葉を聞いて、内心ほっとしていた。
そんな幼少の頃の不思議な思い出を思い出しながら元山は霊安室横手のトイレに駆け込んだ。かなり我慢していたこともあり、場所なら自分が現在いる場所から一番近いトイレに無意識に走っていた。
急を要する場合でも霊安室横のトイレだけは絶対に入らない。
元山が自分でそう決めていた。
自分が霊感体質なのも理解していた、余計な事には巻き込まれたくないという思いからだろうか、霊安室横のトイレだけは入らなかった。
にも関わらず、この日は何故かこのトイレで用を足している自分に対し、何とも形容しがたい不思議な力でこのトイレに導かれたような感覚だった。
霊安室横のトイレは通常の病棟のトイレのように大きな造りでは無い。
霊安室に安置されている亡骸の家族用のトイレと言ってもよい。個室が一つと男性用小便器が一つ設置されている小さなトイレだった。
限界まで小便を我慢していた元山は用を足した後、激しい悪寒に襲われた。背後で誰かがこちらを見ら見つけられているような鋭い視線を感じていた。しかし背後は個室、後ろを振り返った元山は個室の上部、パーテーションが無い部分からこちらを物凄い形相で睨みつけている男を見た。
トイレ個室の天井部分、電灯横手の点滴用フックに紐を吊り、首を吊って死んでいるマサを見上げていた。
『悪縁を断つ寺 鎌八幡 昨年の続き 修さんに捧ぐ
第2章 その2』次週、火曜日に更新予定!