前回までの悪縁を断つ寺 鎌八幡 昨年の続き 修さんに捧ぐ!
10月後半に続きをUpする予定でしたが忙しさのあまり今になってしまいました。
【前回までのあらすじ】
肝臓癌に犯されていた修さん、通っている病院で昔、兄弟のように仲のよかったマサがとんでもない出で立ちで修さんの前に姿を現す。そしてマサが修さんに言った言葉とは・・・
(ライターFT)
『悪縁を断つ寺 鎌八幡 昨年の続き 修さんに捧ぐ 2』
『おまえ死ぬんやな。お前が死んだら俺も楽になれるんや』
修さんの弟分であったマサの変わりようは凄まじかった。そして何故ここに自分がいるのかさえ理解出来ていないような雰囲気だった。修さんは焦りと苛立ちを感じた。心臓の鼓動が早まりだすのが自分でも分かった。
あんなに陽気で楽しい性格だったマサがこれほどの変わりよう、全ては自分の責任だと修さんは感じていた。
修さんの前に変わり果てた姿で何かを呟きながら立ち尽くすマサは正気とは思えなかったが久し振りの再開ということもあり、修さんは気がついたらマサを抱きよせ病院の待合室の堅い椅子に座らせた。
座ったままマサはブツブツと独り言を呟いている。
完全に死んだような目をしているマサ。
意を決した修さんはマサに言った。
『しっかりしろ、俺が必ず何とかしてやるからな、お前までがこんなになってしまって・・・』
修さんは自分を責めた。
『マサ、今お前はどこにいる?』
マサに問いかけるも返事はなくブツブツと気味の悪い独り言を呟いているままだった。もしかしたら誰か付添がいるかも知れないと思い、辺りを見まわしてみるがそれらしい人はいなかった。
通りすがりの看護士に聞いてみた。
『すみません、ちょっとこの人のことを知っていますか?』
看護士に尋ねてみた。もしかしたらこの病院に入院しているかも知れない。
『あれ、小林さんなんでここにいるんですか?』
マサの本名は小林政幸(仮名)といった。
看護士がマサに話しかけた。どうやらマサはこの病院に入院していたようだ。修さんは自分とマサのことを少し説明し、マサとは友人の間柄と伝えマサの入院している病室まで送っていった。看護士も一緒だった。看護士に詳しいマサの病状を聞き出そうとしたが、家族以外の人間には話せないとあっさり断られた。
しかしお見舞いとしてマサの病室には面会するのは問題ないとの事を看護士に確認を取った。
マサの病室は6人部屋だった、患者はマサを含め4名いた。病室に戻ると、向かいのベットの患者がマサのことを心配そうにしていた。
『小林さん、あんたどこに行ってたんや?薬の時間やんか、忘れたらアカンで』
この病棟は脳内科の病棟だった。比較的軽めの脳梗塞や脳に関する患者が入院している病棟だった。ここに入院していたマサの病状は同部屋の患者に聞くところによると小脳梗塞という病名だった。比較的軽めの脳梗塞ということでマサの体には幸い大きな障害は出ていなかった。
しかし彼の行動は少し異常な雰囲気だった。軽いとはいえここまでの変わりようはどう考えてもおかしい。向かいのベットの入院患者に聞くと、夜になると病棟内を徘徊し、聞き取れないほどの小さな声で何やらブツブツと独り言を言っているようだ。他の患者や看護士にはそれほど迷惑を掛けることはなかったようだが、あるとき看護士が夜間の巡回をしている際に病棟の待合室でひざまずき、長さ20cm程の人型の紙を目の前に置き、ブツブツと何か唱えていたという。
薄気味の悪い行動に、マサを見つけた看護士はすぐには近寄れなかったらしい。同室の入院患者によるとそんなことを教えてくれた。
そして、正気の時もあるということだった。
修さんは心の中で胸騒ぎがした。
長さ20cm程の人型の紙?、それは以前、自分のアパートの天井裏から出てきたものと同じなのではないだろうか、一抹の不安を抱えながらマサを病室に戻し、今度は自分の病状を見てもらうために外来に戻った。
名前が呼ばれ診察室に通された。
『詳しく検査をしなければいけませんね』
医者は修さんに向かいそう言った。
話を聞くと肝臓に出来てしまった腫瘍は悪性の可能性が高く、癌であることは間違いないということだった。幸いなことにその腫瘍はそれほど大きくないだろうという医者の見解だった。そして詳しく検査をし、どういう風に治療を行うかということを決めましょうということだった。
修さんは医者に同意し、まずは体を治そうという気になっていた。
マサの居所も掴めた、自分の病状がそれほど緊迫している状況ではないということも分かった。自分がこれからしなければいけないことは分かっていた。
”償い” だ。
診察を終え、マサの病棟に足を運んだ。一言マサに伝えておかなければならないことがあった。久しぶりに会えた友人に対し、修さんはほころんだ表情を浮かべ言った。
『また来るからな』
病室のベットに正座した状態で何やら呟いていたままだったが構わなかった。今、何を言っても無駄だろう、そう思っていた。そして外来の待合室でマサが言ったことを思い返していた。
『おまえ死ぬんやな。お前が死んだら俺も楽になれるんや』
帰りのバスの中で修さんはその言葉を何度も思い返していた。何度思い返してもマサがなぜそんな言葉を吐いたのかを考えていた。何か得体の知れない力が働いているようにも思えたが考えれば考えるほど分からない。
その足で修さんは鎌八幡の住職の所に訪れた。
病院での出来事を住職に伝えた。すると住職は意を決したように修さんに言った。
『これは因縁が深いようやな、早くなんとかせんと手遅れになる可能性もある』
どうやら ”呪い” がかけられているのは間違いないということらしい。そして鎌八幡の住職は自分の手に負えるものでは無いとも言った。この先は住職の知り合いに委ねるしかないということも。
住職は修さんに一枚のメモを渡した。
そこには住所と電話番号が書かれていた。
住所を見ると和歌山県伊都郡高野町・・・と書かれていた。
そしてそこのお寺に連絡を取り行くように言われた。その場所ですることというのは祈祷でもお祓いとも少し内容は違うとの説明を住職に受けた。ではいったい何をするのか?
まずは行を行うというのだ。しかもかなり過酷な護摩行をしないといけないということだった。
まずは形式的に出家し、護摩行により身を清めなければいけないということだった。高野山は真言宗という弘法大師・空海により開かれたといわれる密教と呼ばれる宗教だ。
形式的とはいえ、出家しないといけないということを聞き、修さんは『いよいよオレも坊さんにならないといけなくなったのか』、と内心苦笑していた。
しかし今、しておかないと自分だけでなくマサのことが心配だった。自分の大工の腕に惚れ込み、兄のように慕ってくれた罪のない人間を巻き込む訳にはいかない。自分がどうなったって彼だけは助けなければいけないという使命感に燃えていた。人知を超えたものに対しての恐怖感もあった。やるしかないと心の中の思いはさらに熱さを増していった。
出発の日、マサの見舞いに病棟を訪れた。
相変わらず、ベットの上で何やらブツブツと言ってる。
こちらから何を言っても返答は無かったが修さんはマサに小さな声で呟いた。
『必ず助けてやる』
強い意志がマサに伝わったのか、一瞬視線を修さんに向け、微笑んだようにも見えた。
つづく
次回は12月初旬の更新予定になります。
10月後半に続きをUpする予定でしたが忙しさのあまり今になってしまいました。
【前回までのあらすじ】
肝臓癌に犯されていた修さん、通っている病院で昔、兄弟のように仲のよかったマサがとんでもない出で立ちで修さんの前に姿を現す。そしてマサが修さんに言った言葉とは・・・
(ライターFT)
『悪縁を断つ寺 鎌八幡 昨年の続き 修さんに捧ぐ 2』
『おまえ死ぬんやな。お前が死んだら俺も楽になれるんや』
修さんの弟分であったマサの変わりようは凄まじかった。そして何故ここに自分がいるのかさえ理解出来ていないような雰囲気だった。修さんは焦りと苛立ちを感じた。心臓の鼓動が早まりだすのが自分でも分かった。
あんなに陽気で楽しい性格だったマサがこれほどの変わりよう、全ては自分の責任だと修さんは感じていた。
修さんの前に変わり果てた姿で何かを呟きながら立ち尽くすマサは正気とは思えなかったが久し振りの再開ということもあり、修さんは気がついたらマサを抱きよせ病院の待合室の堅い椅子に座らせた。
座ったままマサはブツブツと独り言を呟いている。
完全に死んだような目をしているマサ。
意を決した修さんはマサに言った。
『しっかりしろ、俺が必ず何とかしてやるからな、お前までがこんなになってしまって・・・』
修さんは自分を責めた。
『マサ、今お前はどこにいる?』
マサに問いかけるも返事はなくブツブツと気味の悪い独り言を呟いているままだった。もしかしたら誰か付添がいるかも知れないと思い、辺りを見まわしてみるがそれらしい人はいなかった。
通りすがりの看護士に聞いてみた。
『すみません、ちょっとこの人のことを知っていますか?』
看護士に尋ねてみた。もしかしたらこの病院に入院しているかも知れない。
『あれ、小林さんなんでここにいるんですか?』
マサの本名は小林政幸(仮名)といった。
看護士がマサに話しかけた。どうやらマサはこの病院に入院していたようだ。修さんは自分とマサのことを少し説明し、マサとは友人の間柄と伝えマサの入院している病室まで送っていった。看護士も一緒だった。看護士に詳しいマサの病状を聞き出そうとしたが、家族以外の人間には話せないとあっさり断られた。
しかしお見舞いとしてマサの病室には面会するのは問題ないとの事を看護士に確認を取った。
マサの病室は6人部屋だった、患者はマサを含め4名いた。病室に戻ると、向かいのベットの患者がマサのことを心配そうにしていた。
『小林さん、あんたどこに行ってたんや?薬の時間やんか、忘れたらアカンで』
この病棟は脳内科の病棟だった。比較的軽めの脳梗塞や脳に関する患者が入院している病棟だった。ここに入院していたマサの病状は同部屋の患者に聞くところによると小脳梗塞という病名だった。比較的軽めの脳梗塞ということでマサの体には幸い大きな障害は出ていなかった。
しかし彼の行動は少し異常な雰囲気だった。軽いとはいえここまでの変わりようはどう考えてもおかしい。向かいのベットの入院患者に聞くと、夜になると病棟内を徘徊し、聞き取れないほどの小さな声で何やらブツブツと独り言を言っているようだ。他の患者や看護士にはそれほど迷惑を掛けることはなかったようだが、あるとき看護士が夜間の巡回をしている際に病棟の待合室でひざまずき、長さ20cm程の人型の紙を目の前に置き、ブツブツと何か唱えていたという。
薄気味の悪い行動に、マサを見つけた看護士はすぐには近寄れなかったらしい。同室の入院患者によるとそんなことを教えてくれた。
そして、正気の時もあるということだった。
修さんは心の中で胸騒ぎがした。
長さ20cm程の人型の紙?、それは以前、自分のアパートの天井裏から出てきたものと同じなのではないだろうか、一抹の不安を抱えながらマサを病室に戻し、今度は自分の病状を見てもらうために外来に戻った。
名前が呼ばれ診察室に通された。
『詳しく検査をしなければいけませんね』
医者は修さんに向かいそう言った。
話を聞くと肝臓に出来てしまった腫瘍は悪性の可能性が高く、癌であることは間違いないということだった。幸いなことにその腫瘍はそれほど大きくないだろうという医者の見解だった。そして詳しく検査をし、どういう風に治療を行うかということを決めましょうということだった。
修さんは医者に同意し、まずは体を治そうという気になっていた。
マサの居所も掴めた、自分の病状がそれほど緊迫している状況ではないということも分かった。自分がこれからしなければいけないことは分かっていた。
”償い” だ。
診察を終え、マサの病棟に足を運んだ。一言マサに伝えておかなければならないことがあった。久しぶりに会えた友人に対し、修さんはほころんだ表情を浮かべ言った。
『また来るからな』
病室のベットに正座した状態で何やら呟いていたままだったが構わなかった。今、何を言っても無駄だろう、そう思っていた。そして外来の待合室でマサが言ったことを思い返していた。
『おまえ死ぬんやな。お前が死んだら俺も楽になれるんや』
帰りのバスの中で修さんはその言葉を何度も思い返していた。何度思い返してもマサがなぜそんな言葉を吐いたのかを考えていた。何か得体の知れない力が働いているようにも思えたが考えれば考えるほど分からない。
その足で修さんは鎌八幡の住職の所に訪れた。
病院での出来事を住職に伝えた。すると住職は意を決したように修さんに言った。
『これは因縁が深いようやな、早くなんとかせんと手遅れになる可能性もある』
どうやら ”呪い” がかけられているのは間違いないということらしい。そして鎌八幡の住職は自分の手に負えるものでは無いとも言った。この先は住職の知り合いに委ねるしかないということも。
住職は修さんに一枚のメモを渡した。
そこには住所と電話番号が書かれていた。
住所を見ると和歌山県伊都郡高野町・・・と書かれていた。
そしてそこのお寺に連絡を取り行くように言われた。その場所ですることというのは祈祷でもお祓いとも少し内容は違うとの説明を住職に受けた。ではいったい何をするのか?
まずは行を行うというのだ。しかもかなり過酷な護摩行をしないといけないということだった。
まずは形式的に出家し、護摩行により身を清めなければいけないということだった。高野山は真言宗という弘法大師・空海により開かれたといわれる密教と呼ばれる宗教だ。
形式的とはいえ、出家しないといけないということを聞き、修さんは『いよいよオレも坊さんにならないといけなくなったのか』、と内心苦笑していた。
しかし今、しておかないと自分だけでなくマサのことが心配だった。自分の大工の腕に惚れ込み、兄のように慕ってくれた罪のない人間を巻き込む訳にはいかない。自分がどうなったって彼だけは助けなければいけないという使命感に燃えていた。人知を超えたものに対しての恐怖感もあった。やるしかないと心の中の思いはさらに熱さを増していった。
出発の日、マサの見舞いに病棟を訪れた。
相変わらず、ベットの上で何やらブツブツと言ってる。
こちらから何を言っても返答は無かったが修さんはマサに小さな声で呟いた。
『必ず助けてやる』
強い意志がマサに伝わったのか、一瞬視線を修さんに向け、微笑んだようにも見えた。
つづく
次回は12月初旬の更新予定になります。