だから肝心なのは、想う相手をいつでも腕の中に抱きしめている
ことだ。ぴたりと寄りそって、完全に同じ瞬間を一緒に生きていくことだ。
二本の腕はそのためにあるのであって、決して遠くからサヨナラの手を
ふるためにあるのではない。
(愛をひっかけるための釘よりの名言)
(ライターFT)
中島らもというジャンキー小説家3
さすがに小説家、エッセイストだ。
彼の文には知性だけでなくユーモアと優しさが込められている。
2004年神戸市内の飲食店の階段から転落し、頭部を負傷。脳挫傷となり
意識不明のまま10日後、26日に亡くなった。52歳の人生だった。
メディアにもよく出ていたらも氏、マニアックなネタが多かった。
どのFM局だったか忘れたが、真夜中にやっているラジオ番組の
コーナーで、何か機械の取扱説明書をらも氏がただ朗読するという
コーナーがあった。あの独特の牛のようなしゃべり方で取説を朗読
するのだ。
数分で心地よい眠りに陥る。
上の動画は彼がまだ生きている時のTV番組に出演したときの
コネタ映像になる。
アナウンサーは53歳だったというらも氏の死を伝える。
実際に亡くなった年齢は52歳、らも氏は自分の寿命をもしかしたら
決めていたのかも知れない。
シリーズの第3話目です。
らも氏を語る上で忘れてはいけないのが奥様の中島美代子さんでしょう。
らもー中島らもとの35年ーではこう綴られている。
「 肝臓の数値が正常に戻ったらもは50日間入院した池田市民病院を退院した。ふっこは、退院したらもを自分のアパートに閉じ込め、家に帰さなくなった。帰せば。私が酒を飲ませてしまうというのが理由だった。
「家にあるお酒は全部捨ててください。おっちゃんが見ている前で、台所で流して捨ててください」
「私は、そんなこと、しないよ」
私が言うとおりにしないと、ふっこはひどく怒った。
「ミーさんに任しといたら、おっちゃんが死んでしまう」
ふっこはそう言うが、らもが人にかまわれたり、行動を制限されたりす
るのが何より嫌いな人間だということを、私は知っている。私自身が、
やりたいことは誰に何と言って止められてもやってしまう人間だった。
ある意味、らもと私は双子のように似ていた。らもは別に死ぬつもりで
酒を飲んでいるわけではない。病気になったらまた入院すればいい。
子供じゃないのだから。
しかし、ふっこにはそんな私が許せなかったようだ。ふっこは、周囲
の人たちによく言っていたという。
「おっちゃんは家に帰ると酒を飲むから帰したくない」
「ミーさんはだらしないから、おっちゃんが可哀想や」
ここに出てくる「ふっこ」とはわかぎえふという才能豊かな
女優、演出家、劇作家、エッセイストです。
らも氏の愛人とされています。
このやり取りを読み、自分の心の中で血が沸騰する想いがした。
理由は分からない。
奥さんがらも氏を理解しているということなのだろう。
私たちには理解できない心の絆があるこからこそ、こうした文章が
描けるのだろう。
『バンド・オブ・ザ・ナイト』の時代は、薬やお酒と、それから恋愛とセックスの時代でもあった。
あの頃、らもも私も何人の人と寝ただろう。
らもは他の女の子とやりたかったんだろう。
でも、私は他の人と寝たかったわけではない。
ただ、ラリっていたし、そういう雰囲気だったし、
何より、私はらもに「彼としいや」と言われるので、
少々嫌いな相手とでもやった。(119-120頁)
明日も続く。